「右の後ろ頭が、ズキッ、ズキッと痛むんです」

「いつからですか」

「先週の火曜の、夕方からです」

――この最後のお答えに、少し身構えます。

後頭部の痛みで来られる方の多くは、チクチクとした軽い後頭神経痛や、寝違え、肩こりからくる筋収縮性頭痛(緊張型頭痛)です。市販の鎮痛薬で数日のうちに治まってしまうことも少なくありません。そしてそうした頭痛の方に「いつからですか」とお尋ねすると、たいていは「そういえば何日か前から」「気がついたらだんだんと」という、あいまいなお答えが返ってきます。じわじわと始まる痛みだからです。

ところが、日にちを、ときには時間まで特定して答えられる方がおられます。ある一瞬から痛みが始まった、ということです。そのときに思い浮かべなければならない病気の一つが、椎骨動脈解離(ついこつどうみゃくかいり) です。

血管の壁が「裂ける」病気

動脈の壁は、外側から外膜・中膜・内膜という三つの層でできています。いちばん内側は内皮というなめらかな膜でおおわれ、その内側を血液が流れています。

何かのきっかけで内膜が破れると、その裂け目から血液が壁の中へ入り込み、壁の内部に血のかたまり(壁内血腫)をつくります。これが「解離」です。血液の通り道が壁の中に二つできてしまう、と考えるとわかりやすいかもしれません。

血腫は外へ向かって血管をふくらませる一方で、内側へは血液の本来の通り道を押しつぶします。ふくらんだ部分は「解離性脳動脈瘤」と呼ばれます。

首の後ろを通って脳へ向かう椎骨動脈は、この解離が起こりやすい血管です。四十代から五十代の、それまで大きな病気をしたことのない方に起こることも珍しくありません。

なぜ後頭神経痛とまぎらわしいのか

椎骨動脈が裂けたとき、最初に出る症状が 片側の後頭部あるいは頭頂部に限局するあるいはそこから首すじにかけての鋭い痛み(頭痛)で間欠的に出現します。ズキッと刺すような痛み方をすることも多く、程度の強い後頭神経痛そのものによく似ています。そのような時は放置せず、できるだけ早急に受診が必要です。

区別の手がかりになるのは、次のような点です。

  • いつから痛み出したかを、はっきり答えられる
  • これまでに経験したことのない種類の、または強さの痛みである
  • 片側に偏っていて、後頭部から首の後ろ、耳の後ろあたりに広がる
  • 首を急にひねった、上を向いて作業をした、スポーツや施術で首を大きく動かした、といった心当たりのあとに始まった

このうち一つ目が、冒頭に書いた点です。血管の壁が裂けたその瞬間から痛みが始まるので、発症の時点をはっきり指摘できることが多いのです。逆に「気がついたら痛かった」という始まり方であれば、この病気である可能性はぐっと下がります。問診でこの一点を確かめるだけでも、疑うきっかけになります。

そして、痛みに加えて次のような症状があるときは、時間をおかずに受診していただきたいところです。

  • めまい、ふらつき、まっすぐ歩けない(脳幹部など平衡感覚に関係する部分に脳血流低下が疑われる症状)
  • 片側の顔と反対側の手足でしびれ方や温度の感じ方が違う
  • ものが二重に見える、声がかすれる、飲み込みにくい
  • しゃっくりが止まらない
  • これまでにない激しい頭痛で、吐き気や嘔吐を伴う

これらは、椎骨動脈が細くなったり詰まったりして脳幹や小脳の血流が落ちたとき、あるいは血管が破れてくも膜下出血を起こしたときに出る症状です。

診断はMRIで

診断にはMRI・MRA(磁気共鳴画像)が中心的な役割を果たします。血管の走行を映し出すMRAで血管のふくらみや細くなった部分を確認し、あわせて撮影する画像で、壁の中にたまった血腫そのものをとらえることができます。CTや採血だけでは診断がつかないことも多く、頭痛の性状から疑ってMRIでMRA(MR血管撮影)を撮る、という順序が大切になります。

当院ではMRIを備えており、こうした頭痛の鑑別に日常的に用いています。そしてこのような状態が見つかれば破裂しないよう安静を保ち、血圧を正常にコントロールし、破裂が起こらなくなるまでくも膜下出血に対応できる医療機関へ紹介させていただきます。手術が必要な状態もないわけではありませんが、安静加療はしばらく数日から数週の間、安全な状態になるまでの入院での経過観察も必要になると考えます。

その後の経過は、大きく三つ

解離が起きた血管は、その後おおよそ次のいずれかの道をたどります。

一つ目は、元に戻る経過です。 壁の中の血腫が時間をかけて吸収され、血管はほぼもとの形に戻ります。実際にはこの経過をたどる方が多く、血圧を下げて安静を保ちながら画像で追いかけていくことになります。

二つ目は、狭窄が残る経過です。 血腫が固まって線維化すると、血管が細いままで残ります。日常生活に支障が出ないことがほとんどですが、経過の観察は続けます。

三つ目は、詰まってしまう経過です。 血管の内側が完全にふさがると、その先へ血液が届かなくなり、脳梗塞を起こします。発症したその時に梗塞をきたす場合もあれば、経過の途中で進むこともあります。

そして、これらとは別に、外膜まで裂けて破裂し、くも膜下出血を起こす ことがあります。頻度としては多くありませんが、起きてしまえば命にかかわり、再出血の危険も高いため、緊急の治療が必要になります。

治療と、日常での注意

破裂していない場合は、血圧をしっかり下げ、安静を保ち、画像で変化を追う――という保存的な治療が基本になります。急性期には首を大きくひねる動作や、いきむような動作、激しい運動は控えていただきます。くも膜下出血をきたした場合は、開頭手術やカテーテル治療の適応となり、専門施設での対応が必要です。

受診の目安

後頭部の痛みのほとんどは、心配のいらないものです。それでも、

  • 突然はじまった、これまでにない後頭部・首すじの痛み
  • 痛みに加えて、めまいやふらつき、ものの見え方・話し方・飲み込みの異常がある

このどちらかに当てはまるときは、様子を見ずにご相談ください。とくに激しい頭痛で嘔吐を伴う場合は、救急車を呼ぶことをためらわないでください。

「ただの神経痛だと思っていた」という一言のうしろに、この病気が隠れていることがあります。気になる頭痛があれば、どうぞ気軽に受診してください。


この記事は一般的な情報をお伝えするものです。症状の原因は人それぞれですので、実際の診断・治療については診察のうえでご相談ください。

さかぐちクリニック